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うるう秒の終わり — 1972 年から 2035 年廃止までの 50 年史と UTC・原子時の仕組み
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うるう秒の終わり — 1972 年から 2035 年廃止までの 50 年史と UTC・原子時の仕組み

「1 日 = 86,400 秒」は誰もが知る常識ですが、現実の地球時計はこの単純な等式が常には成り立っていません。1972 年から導入された「うるう秒 (leap second)」は、地球の自転に基づく時刻 (UT1) と原子時計に基づく時刻 (TAI / UTC) のずれを 1 秒の閏で吸収する仕組み。最後に挿入されたのは 2017 年 1 月 1 日で、累計 27 回。そして 2022 年 11 月 18 日、フランス・ベルサイユで開かれた第 27 回国際度量衡総会 (CGPM) 決議 4により、2035 年までにうるう秒を廃止することが正式に決定されました。本記事では ITU-R Recommendation TF.460-6 / CGPM 2022 / IERS Bulletin C / BIPM・NIST・国立天文台の一次資料を元に、50 年の歴史と決定の背景を整理します。

#うるう秒#UTC#原子時#CGPM#ITU-R

3 つの時刻 — TAI / UT1 / UTC

現代の時刻系には複数の定義があります。混乱しないために、まず 3 つを区別します。

名称正式名定義性質
TAI 国際原子時 (Temps Atomique International) 世界中の約 400 台のセシウム / ルビジウム原子時計の加重平均 (BIPM 算出) 地球自転と無関係、決して飛ばない
UT1 世界時 1 (Universal Time 1) 地球の自転角度から決まる時刻 (IERS が観測) 地球の回転速度の揺らぎを反映
UTC 協定世界時 (Coordinated Universal Time) TAI に整数秒のうるう秒を加えて UT1 に近づけたもの UTC = TAI - (累積うるう秒数)

1958 年に TAI が導入され、1972 年に UTC が現在の形で運用開始。2017 年以降は UTC = TAI - 37 秒 という関係で固定されています。

日本標準時 (JST) は UTC + 9 時間。日本国内では情報通信研究機構 (NICT) 小金井本部の原子時計群と国立天文台 (NAOJ) 水沢 VLBI 観測局の協調で生成されています。

なぜ「うるう秒」が必要だったのか

地球の自転は厳密には一定ではありません。月や太陽の潮汐力により長期的に減速しており、1 日の長さ (LOD: Length of Day) は約 100 年で 1.7 ms 程度長くなります。これが積み重なって、原子時 TAI と地球自転由来の UT1 が次第にずれていきます。

1972 年以前、世界各国の標準時はそれぞれの国の天文観測 (UT2 など) から決められていました。1955 年にセシウム原子時計が登場し、桁違いに安定した時刻基準が利用可能になると、両者を整合させる必要が出てきました。

1971 年の CCIR (現 ITU-R) Recommendation 460、続く 1974 年改訂の ITU-R Recommendation TF.460で、UTC は次のように定義されました:

  • UTC の 1 秒は原子時の 1 秒と同じ (SI 秒)
  • UTC と UT1 の差が ±0.9 秒を超える前に、UTC を 1 秒だけ調整 (うるう秒挿入)
  • 挿入は通常 6 月末または 12 月末の最終秒として 23:59:60 を入れる
  • 判断と告知はIERS (国際地球回転・基準系事業) が行う (Bulletin C)

うるう秒の挿入時刻 (UTC 23:59:60) は、日本時間では翌日の 8:59:60 にあたります。実際の挿入は IERS が約 6 ヶ月前に Bulletin C で発表するため、各国の標準時機関は事前に対応できます。

うるう秒の歴史 — 27 回の挿入

1972 年から 2017 年までの 45 年間で、うるう秒は27 回挿入されました。すべて「+1 秒」の挿入で、「−1 秒削除」は実施されたことがありません (制度上は可能)。

挿入日JST累積差 (UTC - TAI)
1972-06-30 23:59:60 UTC1972-07-01 08:59:60 JST−11 秒
1972-12-31 23:59:60 UTC1973-01-01 08:59:60 JST−12 秒
.........
2008-12-31 23:59:60 UTC2009-01-01 08:59:60 JST−34 秒
2012-06-30 23:59:60 UTC2012-07-01 08:59:60 JST−35 秒
2015-06-30 23:59:60 UTC2015-07-01 08:59:60 JST−36 秒
2017-01-01 00:00:00 UTC (前)2017-01-01 09:00:00 JST (前)−37 秒 (現在)

2017 年 1 月以降、約 9 年間うるう秒が挿入されていません。これは地球自転の長期的減速が想定より穏やかで、近年はむしろわずかに加速している期間もあるため。2020 年代前半には UT1-UTC が反転し、史上初の「マイナスのうるう秒」(削除)が必要になる可能性も指摘されました。

地球自転の予測不可能性 — IERS の苦悩

うるう秒の問題は、その不規則性にあります。

  • 地震・氷河融解・大気循環など多様な要因で 1 日が ±数 ms 変動
  • 2011 年の東北地方太平洋沖地震では地球の慣性モーメントが微小に変化、1 日が 1.8 μs 短縮
  • 2020 年は 1960 年以降で最も短い 1 日が連続記録 (IERS Earth Orientation Centre)
  • 長期予測モデルの誤差は数年で ±1 秒

このため IERS は 6 ヶ月先のうるう秒挿入を判断するのが精一杯で、コンピュータシステムの長期スケジュール (証券取引・衛星運用・通信プロトコル) との折り合いが悪化していました。

IT 業界の悲鳴 — Google / Meta / Cloudflare の SmearLeap

うるう秒は、原子時計と整合した時刻系を必要とする現代 IT インフラに大混乱を引き起こしてきました。代表的な障害事例:

  • 2012-06-30: Linux カーネルの hrtimers バグで Reddit / Mozilla / LinkedIn / Yelp などが障害
  • 2012-06-30: Qantas 航空の予約システムが世界規模でダウン
  • 2017-01-01: Cloudflare の DNS 1.1.1.1 で 0.2% の DNS リクエスト失敗 (内部の Go プログラムが NTP 時刻のジャンプで負の値を返した)

これらの教訓から、Google は 2008 年から "Leap Smear" という独自対策を導入。うるう秒の前後 24 時間にわたって時刻を 1/86400 ずつ調整し、システム的なジャンプを発生させない方式です (Google Public NTP は time.google.com)。

Amazon、Meta、Cloudflare、Microsoft Azure もそれぞれ独自の Smear を実装。しかし企業ごとに smear の幅 (12h / 20h / 24h) や開始タイミングが異なるため、異なる NTP サーバを参照する 2 つのシステム間で最大 1 秒以上のずれが生じる問題が発生しました。

2022 年 7 月には Meta、Google、Microsoft、Amazon の 4 社が共同声明 "Time appears to be a serious matter" を発表し、CGPM に対してうるう秒の廃止を強く要請しました。

2022 年 CGPM 決議 4 — 2035 年までに廃止

2022 年 11 月 18 日、フランス・ベルサイユで開催された第 27 回国際度量衡総会 (CGPM) は、決議 4 "On the use and future development of UTC" を採択しました。決議の要点 (BIPM 公式英文より要約):

  1. 2035 年までに、UTC のうるう秒挿入による調整を停止する
  2. UTC と UT1 の最大許容差は従来の 0.9 秒よりはるかに大きい値に変更する (具体値は後日 ITU-R が決定)
  3. 具体値は遅くとも 2026 年までに各機関が提案、CGPM 2026 で確認する
  4. 地球自転と UTC の関係は、必要なら100 年単位での調整に変更

つまり 2035 年以降、UTC と TAI の差は約 1 分間以上ずれる時代が来ても挿入なしで動かす方針です。1 日 86,400 秒という SI 秒ベースの仕組みはそのまま継続。

賛成は決議文書に署名した CGPM 加盟国の大多数。反対意見もあった国 (主にロシアの GLONASS 衛星測位系がうるう秒制御に依存しているため移行コストを問題視) は決議文に補遺として記録されています。

廃止後の運用 — 何が変わるか

2035 年以降の予想される運用 (確定情報は CGPM 2026 を待つ必要あり):

  • SI 秒の長さは変わらない: TAI も UTC も SI 秒で進む
  • UTC = TAI - (固定値) になる: もう増えない
  • UT1-UTC のずれは累積: 100 年単位での調整に
  • 天文学者は UT1 を直接使う: 望遠鏡の指向制御など、地球自転に同期させたい用途は UT1 を別途参照
  • NTP / PTP / TAI ベースのプロトコルは無修正で動く: タイムスタンプの単調性が完全保証される

逆に変わらないこと:

  • 太陽が南中する時刻 (人間の感覚的「お昼」) は当面ずれない
  • 日本標準時の運用 (NICT)、UTC + 9 の関係は変わらない
  • POSIX time_t (秒数カウント) も変わらない

うるう年・うるう月との違い

「うるう」と名前がついた仕組みは複数あり、混同されがちです。整理します。

名称頻度調整対象規定
うるう年 (閏年) 4 年に 1 回 (例外あり) 太陽暦と地球公転 365.2425 日のずれ 1582 グレゴリオ暦 (Inter gravissimas)
うるう月 (太陰太陽暦) 19 年に 7 回 太陰暦と季節のずれ メトン周期 (BC 5 世紀)
うるう秒 不定 (1972-2017 で 27 回) UTC と UT1 のずれ ITU-R TF.460 / 2035 廃止予定

うるう年と うるう月は天文学的な調整で長期にわたり安定運用されています。うるう秒だけが地球自転の不規則さに追随する宿命を背負っており、その「予測困難さ」が今回の廃止決議に至りました。

実装側からの教訓

システム開発者がうるう秒問題から学んだ教訓は、廃止後も役立ちます。

  • NTP の同期にはジッタが入る: 1 秒以下のジャンプは廃止後も起きうるので、ロジックは「単調 (monotonic) な時刻ソース」を別途持つこと
  • POSIX time_t は途中で繰り返す: うるう秒挿入時に同じ秒が 2 回出る (2017-01-01 00:00:00 が 2 回)。タイムスタンプを主キーにしているシステムは要注意
  • 2038 年問題は無関係: 32-bit time_t の 2,147,483,647 秒到達はうるう秒とは別問題で、64-bit 化が解決策
  • マイクロ秒精度の取引: HFT 業界は廃止を歓迎。タイムスタンプの単調性が完全保証されるため
  • 衛星測位: GPS 時刻は元々うるう秒なし (SI 秒のみ)、UTC との差は別途配信される。GLONASS は UTC ベースで影響大

本サイトの 日付計算機年齢計算機 は秒未満の精度を扱わないため、うるう秒の影響は受けません。秒精度を必要とするアプリケーションは、廃止までの 10 年でレガシーコードの移行を検討する時期です。

まとめ

  • 3 つの時刻系: TAI (原子時) / UT1 (地球自転) / UTC (両者の橋渡し)
  • 1972 年運用開始、UTC = TAI - 累積うるう秒数
  • 27 回の挿入、最後は 2017 年 1 月 1 日 (UTC)、累積 −37 秒
  • 地震・氷河・大気の影響で地球自転は不規則、予測困難
  • Linux カーネル / Cloudflare / Reddit など多数のシステムが障害
  • Google の Leap Smear が事実上の業界標準対策に
  • 2022 年 11 月、CGPM 決議 4 で 2035 年までに廃止を決定
  • SI 秒は変わらない、UT1 とのずれは長期的に許容

参考文献・ソース

記事作成に関する注記

本記事は AI(大規模言語モデル)を編集補助として活用して作成しています。 公開前に編集者が内容を確認していますが、事実誤認・仕様の解釈ミス・最新情報との齟齬が含まれる可能性があります。 重要な判断を行う際は、本文中の一次ソースや公式ドキュメントを必ずご自身でご確認ください。 誤りにお気づきの場合は、お問い合わせフォームよりご連絡いただけると助かります。

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