
JJY 標準電波 — 電波時計を 1 ミリ秒で同期する 40kHz / 60kHz の正体 (NICT 公式)
「壁掛け電波時計が勝手に正確になる」 — 多くの人がその仕組みを意識せずに使っている、世界でも類を見ない時刻インフラ。日本では NICT (情報通信研究機構) が運用する JJY 標準電波が、福島と佐賀の 2 局から 24 時間休まず発射され続けています。本記事では NICT 公式の標準電波送信仕様書を一次資料に、なぜ 2 局必要なのか、なぜ夜のほうが届くのか、BCD タイムコードの中身、海外 (WWVB / DCF77 / MSF) との比較、そして GPS 時計への移行潮流を整理します。
JJY とは — 「日本」の標準時刻を全国に届ける長波
JJY (Japan Japan Yahoo... ではなく) は、戦前 1940 年に逓信省が始めた標準電波サービスのコールサイン。70 年代までは茨城県名崎の中波で運用され、1999 年以降は NICT (旧 通信総合研究所) が運用する 2 つの長波局体制になりました。
- おおたかどや山標準電波送信所 (福島県田村市・川内村): 40kHz、1999 年 6 月運用開始
- はがね山標準電波送信所 (佐賀県佐賀市富士町・福岡県糸島市): 60kHz、2001 年 10 月運用開始
送信出力はどちらも 50 kW (実効輻射電力)。送信アンテナは高さ 250m の傘形 (capacitive top-loaded) アンテナで、長波帯の効率良い送信を実現。両局とも NICT の管理下にあり、内部の時計はセシウム原子時計で日本標準時 (JST) と完全同期しています (国際原子時 TAI と協定世界時 UTC を経由)。
つまり、家の壁掛け電波時計が示す時刻は、巡り巡って世界中の原子時計の加重平均 (TAI) に基づいているわけです。
なぜ 2 局必要か — 周波数帯と地理の選択
2 局体制には地理・冗長化・物理学の 3 つの理由があります。
地理: 日本列島は南北約 3,000 km と長い。1 局では九州・沖縄まで安定して届かない。福島の 40kHz は東日本 + 北海道、佐賀の 60kHz は西日本 + 沖縄をカバー。両局合計でほぼ全国土をカバーします。
冗長化: 災害・落雷・メンテナンスでの停波に備え、もう 1 局がバックアップ。実際、2011 年 3 月 11 日の東日本大震災後、おおたかどや山は福島第一原発の警戒区域内のため約 1 ヶ月間停波しました。この期間、東日本でもはがね山の 60kHz を受信できる電波時計は時刻同期を続けられた。
物理学: 40kHz と 60kHz は両方とも長波帯 (LF, 30-300kHz)。長波は「地表波 + 電離層反射」の両方で伝わる特性があり、波長 7.5km / 5km という巨大な波が地形を回り込みやすい。山や建物に強く、屋内でも受信しやすい。
なぜ夜のほうがよく届くのか — 電離層 D 層の正体
電波時計のマニュアルには「夜間に時刻同期します」と書かれていることが多い。これは電離層の特性が原因です。
地上 50-90 km の D 層は太陽からの紫外線で電離するため、昼間は密度が高くなり長波を強く吸収します。夜になると D 層が消滅し、長波は E 層 (90-150 km) または F 層 (150-500 km) で反射されて遠距離まで届きます。
昼間 (D 層あり): 送信所 ──地表波──→ 半径 〜 1,000 km 程度
↓ D 層に吸収されて減衰
夜間 (D 層なし): 送信所 ──地表波──→ 同距離
\
\──電離層反射──→ 半径 〜 数千 km
E/F 層で 1-2 回バウンスして到達
このため屋内で電波の弱い場所では、深夜 0-4 時頃に自動同期するのが最も成功しやすい。多くの電波時計が1 日 1-3 回、深夜に同期を試みるのはこの物理特性に基づいています。
BCD タイムコード — 1 秒に 1 ビット、60 秒で 1 メッセージ
JJY の信号はシンプルな振幅変調 (AM)。搬送波 (40 or 60 kHz) を 1 秒ごとに「強い信号」と「弱い信号」に切り替え、その持続時間でビット情報を表現します。
信号の長さ (送信開始から):
200 ms : "0" ビット (Low 200ms + High 800ms)
500 ms : "1" ビット (Low 500ms + High 500ms)
800 ms : マーカー / フレーム同期 (Low 800ms + High 200ms)
1 秒 = 1 ビット送信、60 秒で 1 つの完全タイムコード
60 秒メッセージの構成 (一部抜粋):
| 秒位置 | 意味 | 例 (12:34:00) |
|---|---|---|
| 0 | マーカー M (フレーム開始) | M |
| 1-3, 5-8 | 分 (BCD: 40, 20, 10, 8, 4, 2, 1) | 34 |
| 9 | マーカー P1 | M |
| 12-13, 15-18 | 時 (BCD: 20, 10, 8, 4, 2, 1) | 12 |
| 22-23, 25-29 | 通日 (1-366 を 9 bit で) | 120 (4/30 = 通日 120) |
| 30-33 | パリティ (PA1, PA2 等) | — |
| 41-49 | 年 (西暦下 2 桁、BCD) | 26 |
| 50-52 | 曜日 (BCD) | 4 (木) |
| 53 | うるう秒予告 LS1 | 0 |
| 54 | うるう秒挿入/削除 LS2 | 0 |
| 59 | マーカー (フレーム終了) | M |
BCD (Binary-Coded Decimal) で 10 進数を 4 bit ずつエンコード。うるう秒の予告は 53 / 54 ビットで配信され、電波時計は深夜の同期時にこれを読み取って自動対応します (今後は 2035 年廃止予定)。
電波時計の中身 — 受信から表示まで
家庭用電波時計の内部はシンプル。アンテナで 40 / 60kHz を受信、振幅変調を復調して 1 秒ごとのビット列を抽出し、60 秒分集めて時刻に変換します。
典型的な動作:
- 水晶発振 (32.768 kHz クォーツ) で内部時計を維持 — 月差 ±15 秒程度
- 1 日 1-3 回、定刻 (通常 02:00 / 03:00 / 04:00) に受信モード起動
- 2-5 分間受信、複数の 60 秒フレームを取得して多数決で誤り訂正
- パリティビット (PA1, PA2) でエラー検出
- 有効なフレームが取れたら水晶時計を補正
- 受信失敗時は次回まで水晶発振で持つ
受信に失敗すると当日は時刻が合わない (ズレが累積する) ので、電波時計は屋外向きの窓際に置くと精度が安定します。マンション内部や金属シールドの中では受信できないことも。
海外の標準電波 — WWVB / DCF77 / MSF / BPC
世界中で同様の長波標準電波が運用されています。
| 局名 | 国 | 周波数 | 運用機関 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| JJY (40) | 日本 (福島) | 40 kHz | NICT | 1999- |
| JJY (60) | 日本 (佐賀) | 60 kHz | NICT | 2001- |
| WWVB | 米国 コロラド | 60 kHz | NIST | 1962- 米全土 |
| DCF77 | ドイツ メインフリンゲン | 77.5 kHz | PTB | 1959- 欧州ほぼ全域 |
| MSF | 英国 アンソーン | 60 kHz | NPL | 1950- UK + 周辺 |
| BPC | 中国 河南省 | 68.5 kHz | NTSC | 2002- 中国全土 |
| TDF | フランス アルージェ | 162 kHz (廃止) | — | 2017 廃止 |
多バンド対応電波時計 (例: シチズン Eco-Drive Multi-Band 6) は JJY40 / JJY60 / WWVB / DCF77 / MSF / BPC の 6 局を切替受信し、海外旅行中も自動補正します。タイムコードのフォーマットは局ごとに少しずつ違うため、内部に各局のデコーダを持っている必要があります。
面白い点として、米国 WWVB と日本 JJY60 は同じ 60 kHz。アンテナ共用ができそうですが、タイムコードフォーマットが完全に違う (WWVB は IRIG-H フォーマット、PWM 方式) ため、別物として処理されます。
GPS 時計と電波時計の競合
2010 年代以降、GPS 衛星電波で時刻同期する腕時計 (Seiko Astron, Citizen Satellite Wave, Casio Oceanus) が登場。30 秒程度の野外露出で世界中どこでも時刻同期できます。
| 方式 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|
| 長波電波時計 | 消費電力極小・屋内受信可能・低コスト | 夜間限定・受信エリア限定 (各国 1-2 局) |
| GPS 時計 | 世界中対応・昼間でも OK | 消費電力大・空が見えない場所では NG |
消費電力の差が大きい (GPS チップは長波受信の数百倍電力を食う) ため、長波電波時計は引き続き家庭用壁掛け時計のスタンダード。一方、頻繁に海外移動する人は GPS 時計を選びます。
近年はスマートフォン連携 (Bluetooth で iPhone/Android の時刻と同期) する腕時計が主流になり、独立した時刻同期手段としての需要は徐々に減っています。とはいえ NICT は引き続き 2 局体制を維持、推定4,000 万台以上の電波時計が日本国内で稼働中とされ、当面は社会インフラとして継続。
災害時の最後の砦 — JJY が止まると何が起きるか
2011 年 3 月の東日本大震災で、おおたかどや山が約 1 ヶ月停波したとき、東日本では西日本のはがね山 60kHz を受信できる時計だけが同期を続けられました。多くの 40kHz 専用時計はその間、内部の水晶発振 (月差 ±15 秒) だけで時を刻みました。
これを教訓に、JJY は地震・津波・原子力災害時の独立した時刻配信インフラとして位置付けられています。NICT は通信総合実験施設として、電力途絶時にも自家発電で 24 時間運用を維持できる体制を整備。
関連して、QZSS みちびきの DCX 災害・危機管理通報 や 緊急地震速報 と組み合わせると、地上通信網が途絶しても時刻情報・警報が届く多重化された防災情報基盤が日本にはあります。
まとめ
- JJY = NICT が運用する標準電波 (おおたかどや山 40kHz + はがね山 60kHz)
- 2 局体制で全国カバー + 冗長化、両局とも 50kW 出力
- 夜間に届きやすいのは電離層 D 層 (昼に長波を吸収) が消えるため
- 1 秒 = 1 ビット、60 秒で 1 タイムコード、BCD で時分秒・年・曜日・うるう秒予告
- 電波時計は深夜 1-3 回受信を試行、多数決で誤り訂正、水晶発振で持続
- 海外: WWVB (米国 60kHz), DCF77 (独 77.5kHz), MSF (英 60kHz), BPC (中 68.5kHz)
- GPS 時計と競合するが、消費電力で長波電波時計が家庭用標準を継続
- 2011 年 3 月の東日本大震災で 1 ヶ月停波経験あり、災害時の冗長性として重要
参考文献・ソース
- NICT (情報通信研究機構) — 標準電波の運用状況 ↗
- NICT — 標準電波 JJY フォーマット詳細仕様 ↗
- NICT — おおたかどや山標準電波送信所 (JJY 40kHz) ↗
- NICT — はがね山標準電波送信所 (JJY 60kHz) ↗
- NIST — WWVB Time Signal (U.S. Standard, 60 kHz) ↗
- PTB — DCF77 Time Signal (Germany, 77.5 kHz) ↗
- ITU-R Recommendation TF.768 — Standard frequencies and time signals ↗
- BIPM — TAI / UTC and time signal services ↗
記事作成に関する注記
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