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メートル法 220 年史と 2019 SI 単位再定義 ― キログラム原器が廃止されるまで
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メートル法 220 年史と 2019 SI 単位再定義 ― キログラム原器が廃止されるまで

2019 年 5 月 20 日。130 年間続いた「キログラム原器」が、白金イリジウム合金の金属塊から、宇宙のどこででも測れる物理定数による定義へと置き換えられました。同じ日、メートル・秒・アンペア・ケルビン・モル・カンデラの 7 基本単位すべてが、人類が作った「モノ」ではなく、自然界の基本物理定数によって定義されるようになりました。フランス革命の最中に 1 メートルが生まれてから 220 年。長い歴史の到達点であるこの再定義を、BIPM の決議文書と国立研究機関の一次資料から整理します。

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1791-1799: フランス革命が生んだ「人類普遍の単位」

メートルの起源は、フランス革命直後の混乱と理想主義の中にあります。当時の欧州では地方ごとに異なる単位(フィート、ポンド、トワーズなど数百種類)が使われ、税制も交易も混乱していました。フランス科学アカデミーは 1791 年、王の腕の長さや穀物粒の数のような「権力や偶然に依存する」基準ではなく、「あらゆる時代、あらゆる人々のための」普遍的な基準として、地球そのものを測ろうと提案しました。

具体的な定義は: 「北極から赤道までの子午線弧長の 1000 万分の 1」 を 1 メートルとすること。当時の天文学者ジャン・バティスト・ジョゼフ・ドランブルとピエール・メシャンが 1792-1798 年にダンケルクからバルセロナまでの子午線を測量し、その値から世界初の物理基準が作られました。

1799 年、白金製の 「メートル原器」「キログラム原器」がフランスの公文書館に納められました。キログラムは「4°C の純水 1 立方デシメートル(1000 cm³)の質量」として定義され、これに対応する金属の塊が標準となりました。

豆知識: ドランブル隊の子午線測量は、現代の衛星測量と比べると約 0.02 % の誤差がありました。地球は完全な球ではなく、極でわずかに扁平なため、北極→赤道の実測長は約 10,001,966 m。1 m を「1000 万分の 1」と定義したので、実際は 1 m あたり約 0.2 mm 短かった計算になります。

1875: メートル条約と BIPM の誕生

メートル法は最初フランス国内の単位でしたが、産業革命と国際貿易の進展で世界標準化の機運が高まりました。1875 年 5 月 20 日、パリで 「メートル条約 (Convention du Mètre)」 がフランス・ドイツ・米国・ロシアなど 17 か国によって調印されました(日本の加盟は 1885 年)。

この条約に基づき、3 つの国際機関が設立されました:

  • CGPM(国際度量衡総会、Conférence Générale des Poids et Mesures)— 加盟国の代表が約 4 年ごとに集まる最高意思決定機関
  • CIPM(国際度量衡委員会)— CGPM の決議を実行する常設委員会
  • BIPM(国際度量衡局、Bureau International des Poids et Mesures)— パリ郊外サンクルーの「ブルトイユ館 (Pavillon de Breteuil)」に置かれた事務局兼研究機関

毎年 5 月 20 日が世界計量記念日 (World Metrology Day) なのは、メートル条約調印日に由来します。2019 年 5 月 20 日に新 SI が発効したのも、これに合わせた象徴的な日付選定でした。

1889-1960: 国際メートル原器と国際キログラム原器の時代

1889 年の第 1 回 CGPM で、白金 90% + イリジウム 10% の合金製、X 字断面 1 m 長の国際メートル原器 (International Prototype of the Metre, IPM) と、円柱形の国際キログラム原器 (International Prototype of the Kilogram, IPK) が承認されました。

IPK は直径・高さともに約 39 mm の質素な円柱で、現在も BIPM ブルトイユ館の地下金庫に厳重に保管されています。「公式コピー」と呼ばれる兄弟原器も同時に作られ、各国に配布されました。日本の 「Kg No.6」 は 1890 年に交付され、現在も産業技術総合研究所(つくば市)が国家標準として保管しています。

原器による定義には大きな問題がありました:

  • 「モノ」がそこにしか存在しない: 他の場所では使えない
  • 物理的に壊れる・失われる可能性: 火災・地震・盗難
  • 時間とともに変化する: 表面の汚れ、結晶構造の変化など

1960 年の第 11 回 CGPM はまずメートルを物理定数で再定義しました。クリプトン 86 原子のエネルギー準位間遷移に対応する電磁波の真空中の波長の 1,650,763.73 倍です。原器という「モノ」から、原子という「自然の不変量」への移行が始まりました。

1983: メートルが光速の定義そのものになる

1983 年の第 17 回 CGPM で、メートルはさらに洗練されます。「光が真空中で 1/299,792,458 秒の間に進む距離」と定義し直されたのです。

これは見方を変えると「光速 c を厳密に 299,792,458 m/s と定義する」ことと同じです。それまで光速は測定対象でしたが、この瞬間から定数になり、メートルの方が「光速と秒から導かれる量」に格下げされました。秒は 1967 年から既にセシウム 133 原子の遷移周波数で定義されていたので、メートルは事実上「セシウム原子+光速」で決まることになります。

この方式の利点は、光速さえ知っていれば誰でも・どこでも・いつでも 1 メートルを実現できることです。例えば 1 ナノ秒で光は約 0.2998 m 進むので、フェムト秒レーザー干渉計で正確に距離を測ることが可能になりました。

1989-2014: 「キログラム原器の質量が変わっている」騒動

メートルと秒は物理定数で再定義されましたが、キログラムだけは 20 世紀の終わりまで原器に頼っていました。そして 1989-1991 年の「3 回目の定期校正」で、衝撃的な事実が判明します。

IPK と公式コピーを精密比較したところ、IPK は約 50 µg(1 g の 2 万分の 1)軽いことがわかったのです。あるいは見方によっては、6 個の公式コピーがそれぞれ平均 50 µg 重くなっていた、とも言えます。「キログラム原器」が定義そのものである以上、ずれは原器の側ではなく公式コピーの側に起きていることになりますが、これは物理学者を悩ませました。なぜなら、空気分子の吸着や表面汚染が原因なら IPK も同じように変化しているはずだからです。

BIPM の追跡調査(IOPscience Metrologia 誌に複数論文)は次のことを示しました:

  • 原器を蒸気で洗浄すると、平均 15 µg 程度の質量が落ちる
  • 洗浄後に時間が経つと、また少しずつ重くなる傾向
  • 長期的にどちらにドリフトしているかは原理的に分からない(基準そのものだから比較対象がない)

「1 kg とは何か」の定義が、その「1 kg そのもの」によって決まる以上、ドリフトの絶対値は永遠に分からない――科学哲学的に困った状況でした。

2019 SI 再定義: 7 つの基本単位を物理定数で固定

2018 年 11 月 16 日、ベルサイユで開催された第 26 回 CGPM で、決議 1 が満場一致で採択されました(BIPM 公式文書 Resolution 1 of the 26th CGPM)。発効日は翌 2019 年 5 月 20 日(世界計量記念日)。

この決議で、SI の 7 つの基本単位がすべて、「物理定数の数値を厳密に固定し、その定数から単位を導く」方式に統一されました。

単位 固定される定数 厳密値
秒 (s)セシウム 133 超微細構造遷移周波数 ΔνCs9,192,631,770 Hz
メートル (m)真空中の光速 c299,792,458 m/s
キログラム (kg)プランク定数 h6.626 070 15 × 10⁻³⁴ J·s
アンペア (A)電気素量 e1.602 176 634 × 10⁻¹⁹ C
ケルビン (K)ボルツマン定数 k1.380 649 × 10⁻²³ J/K
モル (mol)アボガドロ定数 NA6.022 140 76 × 10²³ mol⁻¹
カンデラ (cd)視感効果度 Kcd683 lm/W (540 THz で)

特に革命的だったのがキログラムの再定義です。130 年間、唯一無二の物理オブジェクトに頼っていた単位が、量子力学の根幹であるプランク定数 h によって決まるようになりました。IPK は引き続き BIPM 地下金庫に保管されていますが、もはや「定義」ではなく「歴史的遺物」です。

キログラムをプランク定数で測る 2 つの方法

「プランク定数 h を厳密値で定義し、そこからキログラムを導く」という発想は美しいですが、現実問題として 「では誰が h と質量を結びつけるのか」 が課題でした。世界中の研究機関が 2 つのアプローチで実証実験を重ねました。

① キブルバランス (Kibble Balance)

1975 年に英国国立物理研究所 (NPL) のブライアン・キブル (Bryan Kibble) が提案。電磁力と重力をバランスさせて、質量を電気量に変換する装置です。電気量はジョセフソン効果と量子ホール効果を介してプランク定数と直接結びつくため、h を仲介して質量を測定できます。NIST、PTB(ドイツ)、産業技術総合研究所(日本)など各国が独自に装置を構築し、相対不確かさ 10⁻⁸ 以下を達成しました。

② アボガドロ計画 (X-Ray Crystal Density 法)

シリコン 28 同位体を 99.99 % まで濃縮し、完全な単結晶球(直径約 9.4 cm)を作成。X 線干渉計で原子間距離を測ることで、球の中に「ちょうど何個のシリコン原子が入っているか」を計算します。1 mol のシリコン原子質量を経由してアボガドロ定数 NA と質量を関係づけ、NA = h × ... の換算式でプランク定数と結びつけます。

2 つの独立な方法で同じ h 値が再現されたことが、再定義の最終的な決め手になりました。BIPM の 2017 年公式調整値 (CODATA 2017) で h = 6.626 070 15 × 10⁻³⁴ J·s が確定し、これが 2018 年 CGPM 決議の厳密値となりました。

日本の計量法とトレーサビリティ

日本では計量法(昭和 26 年法律第 207 号)がメートル法を国内法で受容しています。2019 年の SI 再定義に合わせ、2019 年 5 月 20 日付で経済産業省告示が改正され、新定義が国家標準として運用開始されました。

運用は国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研, AIST)の傘下にある 計量標準総合センター (NMIJ) が担います。具体的には:

  • キブルバランスによる質量の国家標準維持
  • セシウム原子時計による時間標準(協定世界時 UTC への寄与)
  • 「特定標準器」を頂点とする計量トレーサビリティ階層の運用

トレーサビリティとは「ある計量器の値が、不確かさが明示された連続的な比較を経由して、最終的に国家標準 → 国際標準(プランク定数等の SI 定義定数)に辿り着けること」を指します。市販の電子はかりが「校正済み」と表示できるのは、この階層構造を経由して BIPM の SI 定義に接続されているからです。

これからの単位 — 永遠に変わらない基準

2019 年の再定義は単なる学術的なアップデートではなく、人類の単位の歴史における大きな転換点でした。整理すると:

  • 1791-1960: モノ(原器)を基準とする時代
  • 1960-2019: 原子の遷移など物理現象を基準とする時代(メートル・秒のみ)
  • 2019-: 全 7 単位が物理定数の数値固定で定義される時代

新しい SI には次の特徴があります:

  • 普遍性: 月でも火星でも宇宙のどこでも、プランク定数や光速の値は同じ
  • 不滅性: 「壊れる」「失われる」物理オブジェクトに依存しない
  • スケーラビリティ: ナノグラムから恒星の質量まで、同じ定義で実現可能
  • 技術進歩への適応: より精度の高い測定法が発見されれば、定数を変えずに不確かさだけが改善する

1799 年にフランス革命家たちが夢見た 「あらゆる時代、あらゆる人々のための」普遍的な単位は、220 年後、ようやく文字通りの意味で実現されました。次の革命があるとすれば、それは新しい物理定数の発見(あるいは現在の定数の超精密化)に伴うものになるでしょう。

まとめ

  • 1791: フランス科学アカデミーが「子午線の 1000 万分の 1」をメートルとして提案
  • 1875: メートル条約調印、BIPM 設立(5 月 20 日=世界計量記念日)
  • 1889: 国際メートル原器・キログラム原器を CGPM が承認
  • 1960: メートルをクリプトン 86 の波長で再定義
  • 1983: メートルを「光速 1/299,792,458 秒分の距離」に再定義
  • 1989-2014: IPK の質量が公式コピーと約 50 µg ずれていることが判明
  • 2018.11.16: 第 26 回 CGPM 決議 1 で SI 全面再定義を採択
  • 2019.5.20: 新 SI 発効。キログラムをプランク定数で定義する時代へ
  • 2 つの実証法: キブルバランス(電磁式)とアボガドロ計画(シリコン結晶式)の独立検証が再定義の決め手
  • 日本: 計量法に基づき産総研 NMIJ が国家標準を維持・運用

身近な「1 メートル」「1 キログラム」が、これほど劇的な技術と国際協調の歴史を背負っていることを知ると、買い物の重さも少し違って見えてきます。

参考文献・ソース

記事作成に関する注記

本記事は AI(大規模言語モデル)を編集補助として活用して作成しています。 公開前に編集者が内容を確認していますが、事実誤認・仕様の解釈ミス・最新情報との齟齬が含まれる可能性があります。 重要な判断を行う際は、本文中の一次ソースや公式ドキュメントを必ずご自身でご確認ください。 誤りにお気づきの場合は、お問い合わせフォームよりご連絡いただけると助かります。

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