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労働時間の端数処理 ― 1日15分の丸めはなぜ違法か、昭和63年通達と厚労省2024年指針
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労働時間の端数処理 ― 1日15分の丸めはなぜ違法か、昭和63年通達と厚労省2024年指針

「タイムカードは15分単位で集計、満たない分は切り捨て」― この運用、聞いたことはありませんか。広く使われている一方で、原則として労働基準法違反とされています。しかし「すべての端数処理が違法」というわけでもありません。昭和63年3月14日付の通達(基発第150号)は、限定された条件下での端数処理を明確に認めています。本記事では、違法と合法の境界線を、通達の原文・最高裁判例・厚生労働省が2024年9月に発行したリーフレットの一次ソースに基づいて整理します。

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はじめに ― 本記事は法律相談ではありません

本記事は労働法の概説であり、筆者は弁護士・社会保険労務士などの法律専門家ではありません。具体的な事案で違法性が問題になる場合や、未払い賃金の請求を検討する場合は、必ず労働基準監督署弁護士社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

本記事の目的は、勤怠管理システムの設計・運用に関わる方や、自社の運用が適法かを確認したい総務・人事担当者の方が、一次ソースのありかと論点の地図を把握できるようにすることです。

出発点 ― 賃金全額払の原則(労基法24条)

労働時間の端数処理が問題になる根本的な理由は、労働基準法第24条の「賃金全額払の原則」です。厚生労働省の解説によれば、この条文は次のように要約されます。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない(労基法24条1項)

「全額」とは、実際に労働した時間に対応する賃金は1円残らず支払うという意味です。法令や労使協定による控除(社会保険料・組合費など)以外で勝手に差し引くことはできません。

1日の労働時間に存在する「8分」や「12分」を「キリが悪いから0分」と切り捨てる行為は、その8分・12分に対応する賃金を支払わないことを意味します。これがそのまま24条違反になる、というのが基本構造です。

唯一の公式な例外 ― 昭和63年基発第150号通達

とはいえ、分単位の集計を厳密にやると事務が煩雑です。そこで旧労働省(現・厚生労働省)が事務簡便のために発出したのが、昭和63年(1988年)3月14日付 基発第150号「労働基準法関係解釈例規について」の通達です。

「割増賃金計算における端数」について、通達は次の3つの方法を、24条・37条違反として取り扱わないとしています(愛知労働局公開資料より要約)。

  1. 1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げること
  2. 1時間当たりの賃金額および割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げること
  3. 1か月における時間外労働等の各々の賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、上記②と同様に処理すること

キーワードは「1か月における…の合計」1日単位ではなく、1か月集計後の端数だけが対象です。これが「労働者の不利になりにくく、事務簡便の必要性も高い」と判断された範囲ということになります。

具体的な計算例

  • 月の時間外労働合計が 40時間15分 → 15分は30分未満なので切り捨て → 40時間として割増賃金を計算
  • 月の時間外労働合計が 40時間45分 → 45分は30分以上なので切り上げ → 41時間として割増賃金を計算

このルールは「四捨五入」に近い形で、長期的には切り上げと切り捨てが平準化される設計です。これに対し、1日単位で30分未満を切り捨てると、切り上げる機会がなく一方的に労働者が損をするため、許容範囲を超えてしまいます。

1日単位の丸め=違法、1か月単位の端数処理=合法

この通達と24条の関係を整理すると、次の表になります。

処理 単位 適法性 根拠
15分未満切り捨て 1日 違法 24条全額払違反
30分未満切り捨て・以上切り上げ 1か月 適法 基発第150号
15分単位切り上げ(不足分を賃金に上乗せ) 1日 適法 労働者に有利
残業申請を30分単位に制限 1日 違法 事実上の切り捨て

3行目に注目してください。「切り上げのみは合法」です。1日18分の残業を30分として支払う運用は、労働者に有利な方向の処理なので問題ありません。違法になるのは「切り捨て方向の丸め」だけです。

厚労省2024年9月リーフレットの3つの違反パターン

厚生労働省は令和6年(2024年)9月に「労働時間を適正に把握し正しく賃金を支払いましょう」と題したリーフレットを発出し、違反となる3つの典型パターンを明示しました。

パターン1: 勤怠管理システムの端数処理機能で1日単位の切り捨て

リーフレットは具体例として次を挙げています。

勤怠管理システムの端数処理機能を設定し、1日の時間外労働時間のうち15分に満たない時間を一律に切り捨て(丸め処理)、その分の残業代を支払っていない。

システム側に「15分単位で丸め」というオプションがあっても、それを有効にした運用は違法です。導入時に既定値を確認することが推奨されます。

パターン2: 残業申請を一定単位以上に制限

残業申請は、30分単位で行うよう指示しており、30分に満たない時間外労働時間については、残業として申請することを認めておらず、切り捨てた分の残業代を支払っていない。

「29分の残業はゼロ扱い」とする運用は、事実上の切り捨てとして同じく違法です。記録上の単位とは別に、実労働時間としての記録は別途必要になります。

パターン3: 始業前の作業を労働時間から除外

毎朝、タイムカード打刻前に作業(制服への着替え、清掃、朝礼など)を義務付けているが、当該作業を、労働時間として取り扱っていない(始業前の労働時間の切り捨て)。

これは「丸め」とは別の論点ですが、「始業時刻=労働時間の始まり」と単純化することが切り捨てに繋がるパターンです。労働時間の定義は、次節で見る最高裁判例で明確化されています。

「労働時間」の定義 ― 三菱重工長崎造船所事件(最判 平成12年3月9日)

「タイムカード打刻前の作業は労働時間か?」を正面から判断した最高裁判決が、三菱重工業長崎造船所事件(最高裁第一小法廷判決 平成12年3月9日、民集54巻3号801頁)です。判決は次のように労働時間を定義しました。

労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、(中略)その該当性は、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものである

この判決で「労働時間に該当する」とされたのは、たとえば次のような時間です(造船所での事案)。

  • 作業服・保護具の更衣所での着脱(着用が義務付けられているもの)
  • 更衣所から準備体操場までの移動
  • 副資材の受出し・散水などの準備作業
  • 実作業終了後の更衣所での脱離

判断基準は「使用者の指揮命令下に置かれていたか」であり、これは契約や就業規則の文言ではなく、実態で判断されます。「自由参加の朝礼」とされていても、参加しないことで不利益を被るなら指揮命令下と評価される可能性があります。

厚生労働省の2024年リーフレットも、この最高裁の定義を踏襲し、使用者の指示による準備行為(着替え・清掃等)手待時間業務上義務づけられた研修を労働時間に該当する例として挙げています。

実例 ― 1日12分の切り捨てが年間いくらになるか

具体的な金額感覚をつかむため、典型的な切り捨て運用の影響を試算します。前提は以下のとおりです(時給は計算しやすい値、想定は東京都最低賃金1,163円(令和6年10月)を少し上回る水準)。

  • 時給: 1,500円
  • 1日の切り捨て: 12分(15分丸めの平均的な値)
  • 営業日: 月20日
  • 残業の割増率: 1.25(法定時間外労働)

計算

1か月の切り捨て分: 12分 × 20日 = 240分 = 4時間

1か月の未払い割増賃金: 1,500円 × 1.25 × 4時間 = 7,500円

1年の未払い割増賃金: 7,500円 × 12か月 = 90,000円

1人あたり年9万円。従業員100人なら年900万円が「事業者が支払うべきだったが支払っていない賃金」になります。これが労働基準監督署の是正勧告で表面化したり、退職者が遡って請求したりすれば、未払い賃金の請求権は当分の間 3 年(労基法 115 条の本則は 5 年。改正附則第 143 条第 3 項による経過措置で「当分の間 3 年」、2020 年 4 月 1 日以降に発生した賃金請求権から適用)で計算されるため、過去分の遡及は大きな金額になります。

※ 「当分の間 3 年」は経過措置であり、いずれ本則どおり 5 年に戻る前提です。また 2020 年 3 月 31 日以前に発生した賃金請求権は旧法のまま 2 年とされます。請求権の消滅時効は専門的論点なので、実際の事案では弁護士・社会保険労務士への相談を推奨します。

システム設計の観点 ― 勤怠管理ソフトの実装メモ

勤怠管理システムを設計・選定する立場から押さえておくべきポイントを整理します。

記録は「実時刻」、集計時に通達ルールを適用する

タイムスタンプは打刻された実時刻を分単位(または秒単位)で保存し、後段の集計レイヤーで端数処理ルールを適用するのが原則です。打刻時点で15分丸めを行うと、後から元データに戻れなくなるため、是正勧告対応や訴訟時に致命的になります。

// 良い実装: 実時刻を保存、集計時にルール適用
records: { userId, clockIn: "2026-05-21T08:53:00+09:00", clockOut: "..." }

// 集計レイヤー (月次)
function monthlyOvertimeRoundedMinutes(totalOvertimeMinutes: number): number {
  // 基発第150号: 30分未満切り捨て・30分以上切り上げ (1か月単位のみ適用可)
  const hours = Math.floor(totalOvertimeMinutes / 60);
  const remainder = totalOvertimeMinutes % 60;
  return remainder < 30 ? hours * 60 : (hours + 1) * 60;
}

1日単位の丸めオプションは「初期値オフ」が望ましい

製品が複数の事業形態に対応するため「1日単位の丸め」設定を実装すること自体は否定されませんが、初期値をオフとし、有効化しようとした管理者には警告を表示する設計が安全です。

「切り上げ専用」モードを明示

1日単位での処理を許容する場合、切り上げ方向のみに制限したモードを用意するのは合理的です(労働者に有利な方向の処理は通達でも認められています)。

監査ログを残す

誰が・いつ・どの設定を変更したかのログを残しておくと、是正勧告の調査時や元社員からの請求時の対応資料になります。

まとめ

  • 労働時間の端数処理を支配する根本原則は労基法24条「全額払の原則」
  • 例外は昭和63年3月14日基発第150号の通達。1か月単位の合計に対する30分単位の四捨五入のみが許容される
  • 1日単位の切り捨ては違法(厚労省2024年9月リーフレットが具体例で明示)
  • 切り上げ方向のみは1日単位でも適法(労働者に有利だから)
  • 「労働時間」の定義は三菱重工長崎造船所事件(最判 平成12年3月9日)の「使用者の指揮命令下に置かれている時間」
  • システム実装は「実時刻を保存→集計時に通達ルール適用」が原則。打刻時点での丸めは禁忌

繰り返しますが、本記事は概説です。実際の事案は事業形態・労使協定・就業規則・労働者の働き方によって個別に判断されます。違反の疑いがある場合は労働基準監督署の電話相談(無料・匿名可)、未払い賃金の請求を検討する場合は弁護士・社会保険労務士へご相談ください。

参考文献・ソース

記事作成に関する注記

本記事は AI(大規模言語モデル)を編集補助として活用して作成しています。 公開前に編集者が内容を確認していますが、事実誤認・仕様の解釈ミス・最新情報との齟齬が含まれる可能性があります。 重要な判断を行う際は、本文中の一次ソースや公式ドキュメントを必ずご自身でご確認ください。 誤りにお気づきの場合は、お問い合わせフォームよりご連絡いただけると助かります。

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