基礎代謝量の式比較 — Harris-Benedict / Mifflin-St Jeor / 国立健康・栄養研究所式
基礎代謝量(Basal Metabolic Rate, BMR)は「生命維持のために必要な最小エネルギー消費量」で、厳密には12時間以上の絶食・室温20〜25℃・安静仰臥位で覚醒している状態の測定値を指します。実際に間接熱量測定を行うのは現実的でないため、身長・体重・年齢・性別から推定する回帰式が広く使われます。本記事では代表的な3つの式を、原典論文レベルで整理します。
基礎代謝量・安静時代謝量・総エネルギー消費量の違い
まず用語を整理します。いずれも論文・教科書で区別される概念です。
- BMR (Basal Metabolic Rate): 厳密な条件下(絶食・安静仰臥位・覚醒)の代謝量
- RMR (Resting Metabolic Rate): 安静時代謝量。条件がやや緩く、一般に BMR より 3〜10% 高い
- TEE (Total Energy Expenditure): 1日の総エネルギー消費量 = BMR + 食事誘発性熱産生 + 身体活動量
日常で "基礎代謝" と呼ばれるものは多くの場合 RMR の推定値です。両者の使い分けは栄養学の原典論文を読むときに重要なので覚えておきましょう。
Harris-Benedict 式 (1919 / 1984改訂)
最古の回帰式。Harris JA, Benedict FG. "A Biometric Study of Basal Metabolism in Man" (Carnegie Institution of Washington, 1919) が原典で、136名の男性と103名の女性の被験者データから導出されました。
// オリジナル(1919)
男性: BMR = 66.4730 + 13.7516×体重(kg) + 5.0033×身長(cm) - 6.7550×年齢
女性: BMR = 655.0955 + 9.5634×体重(kg) + 1.8496×身長(cm) - 4.6756×年齢
1984年に Roza と Shizgal が同じ被験者群を再解析し、現代まで広く使われている改訂版を発表しました(Roza AM, Shizgal HM. "The Harris Benedict equation reevaluated" Am J Clin Nutr. 1984;40(1):168-82)。
// Roza-Shizgal 改訂版(1984)
男性: BMR = 88.362 + 13.397×体重 + 4.799×身長 - 5.677×年齢
女性: BMR = 447.593 + 9.247×体重 + 3.098×身長 - 4.330×年齢
限界: 被験者群が白人中心・1919年当時の食生活ベース。現代人、特に肥満傾向の人ではBMRを 5〜15% 過大評価することが後の研究で繰り返し指摘されています。
Mifflin-St Jeor 式 (1990)
現代の栄養学で最も推奨される式。Mifflin MD, St Jeor ST, et al. "A new predictive equation for resting metabolic energy expenditure in healthy individuals" Am J Clin Nutr. 1990;51(2):241-7 が原典で、498名の健常者(正常体重+肥満者を含む)で間接熱量測定を行い、回帰分析で導出されました。
男性: BMR = 10×体重 + 6.25×身長 - 5×年齢 + 5
女性: BMR = 10×体重 + 6.25×身長 - 5×年齢 - 161
精度: 米国栄養士会(現 Academy of Nutrition and Dietetics)は 2005年の系統的レビューで、Mifflin-St Jeor式の推定値が実測値の ±10% 以内に収まる確率が最も高いと結論づけ、以降の臨床ガイドラインで推奨式として採用しています。
限界: 健常な成人(18〜60歳程度)を前提としており、高齢者、アスリート、極度の肥満、発育期の小児では誤差が大きくなります。
国立健康・栄養研究所式(Ganpule式、2007)
日本人被験者に対する推定精度を高めるために開発された式。Ganpule AA, Tanaka S, Ishikawa-Takata K, Tabata I. "Interindividual variability in sleeping metabolic rate in Japanese subjects" Eur J Clin Nutr. 2007;61(11):1256-61 を含む、国立健康・栄養研究所の一連の研究で提案されました。
基礎代謝量(kcal/日) = (0.0481×体重 + 0.0234×身長 - 0.0138×年齢 - 定数) × 1000 / 4.186
// 定数
男性: 0.4235
女性: 0.9708
あるいは係数を kcal 単位に変換した近似式が広く引用されています。
位置づけ: 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」の策定資料や、日本国内の栄養士養成課程で紹介される式の一つです。日本人の体格・食生活を反映しているとされ、欧米式との差異が数%〜10%出ることがあります。
限界: 被験者数が欧米の大規模研究より少なく、世代差・地域差の検証が十分でない点があります。論文の結論では「日本人の代謝推定にはこの式が適している可能性はあるが、個人差を完全に吸収するものではない」と慎重にまとめられています。
3式の数値比較
同じ条件(30歳男性・身長170cm・体重65kg)で各式を計算すると:
| 式 | 推定BMR (kcal/日) |
|---|---|
| Harris-Benedict (1919) | 約 1638 |
| Roza-Shizgal (1984) | 約 1595 |
| Mifflin-St Jeor (1990) | 約 1517 |
| 国立健康・栄養研究所 (2007) | 約 1526 |
同じ人でも式を変えると約 120 kcal(約8%)の差が出ます。これは1日の消費カロリーの1割弱に相当し、ダイエットや増量の計画に直接影響します。
実務での使い分け指針
- 一般的な健常成人(国内、欧米問わず): Mifflin-St Jeor。国際的に最も信頼性が高いとされる
- 日本人で特にローカル基準を重視したい: 国立健康・栄養研究所式
- 歴史的データとの比較が必要: Harris-Benedict(論文の比較対象として)
- アスリート・肥満者・高齢者・小児: どの式も精度が落ちる。二重標識水法(DLW)による実測や、医療機関での間接熱量測定が望ましい
また、式は"推定"であって"正解"ではない点を常に意識してください。Mifflin-St Jeor 式でさえ ±10% の誤差範囲があります。ダイエット計画を立てる場合は、2〜4週間の体重変化から逆算して、実測値で補正していく運用が現実的です。
BMR から TEE への展開
実際に必要なのは1日の総エネルギー消費量(TEE)です。BMR に身体活動レベル(PAL, Physical Activity Level)係数を掛けて推定します。
TEE = BMR × PAL
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の区分:
- 低い(I): 1.50 — 主にデスクワーク、外出稀
- ふつう(II): 1.75 — 通勤+軽い家事、運動なし
- 高い(III): 2.00 — 立ち仕事+運動習慣あり
Mifflin-St Jeor × 1.75 が、デスクワーク+通勤+軽い運動の人の標準的な推定値です。
まとめ
- BMR 推定式は複数あり、同一人物でも 5〜15% の差が出る
- 現代で最も広く推奨されるのは Mifflin-St Jeor 式(1990)
- 日本人向けには 国立健康・栄養研究所式(2007) という選択肢もある
- Harris-Benedict は歴史的重要性はあるが、現代では過大評価しがち
- いずれも "推定" であり、±10% の誤差を織り込むべき
- TEE は PAL 係数(1.50〜2.00)を掛けて算出
※ 本記事の式と数値は疫学論文・公的基準に基づく一般論です。個別の栄養計画は医師・管理栄養士にご相談ください。
参考文献・ソース
- Mifflin MD, St Jeor ST, et al. A new predictive equation for resting metabolic energy expenditure in healthy individuals. Am J Clin Nutr. 1990;51(2):241-7 ↗
- Roza AM, Shizgal HM. The Harris Benedict equation reevaluated. Am J Clin Nutr. 1984;40(1):168-82 ↗
- Ganpule AA, et al. Interindividual variability in sleeping metabolic rate in Japanese subjects. Eur J Clin Nutr. 2007;61(11):1256-61 ↗
- 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版) ↗
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