
ガチャ確率の数学 — 「3%を33連で当たる確率」は63%しかない理由と天井の意味
「SSR の排出率が 3% なら、 33 連回せばだいたい 1 個出るはず」 ― ゲームをやる人なら一度は計算したことのある期待値です。 でもこの感覚、 実は数学的にはかなり外れています。 33 連で 1 個も当たらない人は 36.6% もいて、 1 個以上当たる確率は 63.4%。 「ちょうど 1 個」 出る確率に至っては 37%、 つまり「期待通り」 になる人より「外れる」 人 + 「複数出る」 人の合計の方が多いのです。 本記事では、 ガチャの確率公式 (1 回以上当たる確率 P = 1−(1−p)n)、 期待値、 二項分布、 天井 (pity) の意味を Node.js で全数値を再計算しながら整理し、 景品表示法で 609 万円の課徴金になった「3% 表記で実は 0.333%」 事案まで掘り下げます。
公式 — 「1 回以上当たる確率」 は 1 − (1 − p)ⁿ
ガチャを 1 回引いて当たる確率を p、 n 回引くとき、 「1 回以上当たる確率」 は次の式で計算できます。
P(X ≥ 1) = 1 − (1 − p)ⁿ
導出は単純です。 「1 回も当たらない確率」 は 1 回あたり (1−p) が n 回続くので (1−p)n。 その余事象が「1 回以上当たる確率」 なので 1 から引きます。
この公式の前提は、 各回が 独立な確率 p のベルヌーイ試行であること。 ほとんどのソシャゲのガチャはこの仮定を満たしますが (連動する天井システムがない単発引き)、 後述の「天井あり」 「PU 内訳の表示」 等は別途調整が必要です。
数値の感覚を掴む
排出率 3% のガチャを 33 連 (= 期待値 1/p = 33.33 回) 引くと、 各値は次のようになります。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 1 回以上当たる確率 | 63.40 % |
| 33 連で 1 個も出ない確率 | 36.60 % |
| ちょうど 1 個出る確率 | 37.35 % |
| 2 個以上出る確率 | 26.05 % |
| 3 個以上出る確率 | 7.56 % |
「期待値通り 1 個」 になるのは 37%、 「0 個 or 2+ 個」 の人の合計が 63% です。 ガチャは 期待値の周辺に分散しているので、 「期待値の回数まで引いても出ない」 ことは普通に起きます。
「期待値 = 33 連」 は中央値ではない — 半数が当たる回数は別の数字
期待値 1/p (= p=3% なら 33 連) は 平均の指標であって、 「半分の人がここまでに当たる」 (= 中央値) ではありません。 中央値は別の式で計算します。
「X% の確率に到達するのに必要な n 連」 は、 P(X≥1) = X となる n を解いて:
n = log(1 − X) / log(1 − p)
| 目標確率 | p = 3% | p = 1% | p = 0.7% (PU 想定) |
|---|---|---|---|
| 期待値 (平均) 1/p | 34 連 | 100 連 | 143 連 |
| 50% (= 中央値) | 23 連 | 69 連 | 99 連 |
| 90% | 76 連 | 230 連 | 328 連 |
| 99% | 152 連 | 459 連 | 655 連 |
注目すべきは 中央値が期待値より小さいこと (例: p=3% で中央値 23 連 vs 期待値 33 連)。 これは幾何分布の歪みによるもので、 「運良く早く出る人」 が平均を引き下げる一方、 「いつまでも出ない人」 が長い尾を伸ばすからです。
そして 50% から 99% に上げるための追加回数の伸び方が異様です。 p=3% で見ると 50% → 90% で +53 連、 90% → 99% でさらに +76 連。 確率の世界では「あと一歩」 の代償が指数関数的に重くなります。
天井 (pity) の意味 — 「保険」 の数式
主要なガチャゲームの多くが「天井」 を採用しています。 一定回数引けば確実に対象が出る、 という保証システムです。 PU (ピックアップ) 0.7% で 180 連天井のようなパターン。 この場合の数式は:
P(180 連で 1 回以上 PU 入手)
= 1 (天井で確定)
P(180 未満で自然に出る確率)
= 1 − (1 − 0.007)¹⁸⁰
≈ 71.76 %
つまり「天井までに自然に当たる人」 が 71.76%、 「天井まで引く必要がある人」 が 28.24%。 天井はガチャの確率分布の右尾を強制的に切り落とし、 「最悪ここまで」 という金額の上限を明示する仕組みです。 ユーザーから見ると保険ですが、 ゲーム会社からは「課金額の予測可能性」 を上げる装置でもあります。
注意: 天井は「いつでも引き直し可能」 ではないことが多いです。 セッション (期間内) を跨ぐとリセットされる、 別ガチャ間で持ち越せない、 等の制約は各ゲームの公示を必ず確認しましょう。
二項分布で見る「複数当選」 の確率
「30 連で SSR を 2 個以上欲しい」 のような複数当選の確率は、 二項分布 B(n, p) で計算します。
P(X = k) = C(n, k) · pᵏ · (1−p)ⁿ⁻ᵏ
p = 0.03, n = 33 のとき
P(X = 0) ≈ 36.60 %
P(X = 1) ≈ 37.35 %
P(X = 2) ≈ 18.49 %
P(X = 3) ≈ 5.71 %
P(X ≥ 2) ≈ 26.05 %
P(X ≥ 3) ≈ 7.56 %
二項分布の期待値は単純に n·p (33 連 × 3% = 0.99 個)、 分散は n·p·(1−p) です。 期待値 1 を中心に左右に裾を引きますが、 ガチャは p が小さいので「0 個側」 に強く偏ります。
「狙いの SSR を 2 個以上欲しい」 のような目的では、 1 個以上出すよりはるかにハードルが上がります。 p=3% で 2 個以上出すには:
- 30 連: 22.7% (1 個以上は 59.9%)
- 50 連: 44.5% (1 個以上は 78.2%)
- 100 連: 80.5% (1 個以上は 95.2%)
このギャップが「凸を取るのは別物」 と言われる根拠です。
景表法と確率表示 — 「3%」 が実は「0.333%」 だった事案
日本ではガチャの確率表示は 景品表示法 (景表法) の「不当表示」 規制の対象です。 確率を実際より優良に見せかけると 有利誤認に該当し、 課徴金 (対象期間の売上の 3%) と再発防止命令の対象になります。
実例として、 ある事業者がゲーム内で「あるキャラクターのガチャ 1 回あたりの出現確率 3%」 と表示していたが、 実際は 0.333% しかなかった事案で、 609 万円の課徴金が課されました。 この差はどれくらい違うのか、 100 連で計算してみます。
| 条件 | 表示 3.0% | 実際 0.333% | 差 |
|---|---|---|---|
| 100 連で 1 回以上当たる確率 | 95.24 % | 28.36 % | 66.9 pp |
| 期待値 (1 個出るまでの平均連数) | 33 連 | 300 連 | 9 倍 |
体感的にも「100 連で当たる予定が当たらない」 という事象の発生率が圧倒的に増えます (5% → 72%)。 景表法は 2024 年 10 月施行の改正で確約手続が導入され、 一方で罰則の運用は厳格化が進んでいます。
歴史的には、 2012 年に「コンプガチャ」 (景品を集めると別の景品がもらえる仕組み) が消費者庁から景品規制違反として禁止されました。 これも本質的には、 すべて揃える確率が極端に低くなる現象 ― 5 種 (各 p=1%) を全コンプする期待値は 228 連 (= 100 × H5、 Hn は調和数) ― のように、 個別表示の確率からは想像しにくい総額になることが問題視されたものです。
ガチャ前後にやるべき 3 つの計算
- 「自分の予算で目標確率に達するか」 を中央値・90%値で見る。 「期待値で出るはず」 は半数のケースで裏切られる。 50%・90% で必要な連数を見て、 予算と整合するかチェック。
- 天井までの最悪コストを必ず計算。 天井 180 連 × 1 連 300 円 = 54,000 円 のように、 「最悪この金額が飛ぶ」 を可視化してから引く。
- 確率公示は必ず読む。 「SSR 全体 3%」 と「PU 単体 0.7%」 では桁が違う。 ピックアップ含む合計か、 単独 か、 公示文を確認する。
具体的な数値計算は ガチャ確率計算機 で。 排出率と引き回数を入れるだけで、 1 回以上当たる確率・期待値・中央値・二項分布の表まで一覧できます。 天井設定にも対応しているので「天井までの保険金額」 を可視化したいときにも使えます。
ガチャは数学的に見ると「期待値の周辺に大きく分散した、 右に長い尾を引く分布」 です。 「平均で何連」 ではなく「半分の人は何連で出る、 不運な 10% は何連まで覚悟が要る」 という形で予算を組むのが、 数学的に正しい構え方です。
参考文献・ソース
記事作成に関する注記
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